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お味噌のコラム「味噌日和」

日本人の食卓に欠かす事のできないお味噌。
それは日本の歴史や言語にも深い影響を与えています。
ここでは、お味噌を歴史や科学、文学などのジャンルから理解していくお話を更新していきます。

戦国武将の味噌

戦国武将は戦いを生き抜くために“食”にも知恵を使っていた事が知られています。

戦国武将の味噌信州の武田信玄は、今川氏や北条氏に塩止めされ、上杉謙信に窮地を救われて以来、塩の重要性を知り、塩を確保して保存するために味噌の生産に力を入れています。
東北の伊達政宗も兵糧として味噌を重視し、青葉山城内に日本で最初の本格的な味噌製造工場「御塩噌蔵」を建てています。味噌は武士の薬餌であり塩分の供給源として欠かせず、また領民を飢饉から守る救荒食(非常食)としても大切だったのです。政宗は秀吉と朝鮮に出兵していますが、政宗の仙台味噌は塩分が多く腐敗しなかったとのエピソードも語られています。
織田信長は尾張の大豆だけでつくった味噌を焼き味噌にして、湯漬の菜に必ず用いていたし、石田三成は“勝負食”として味噌仕立ての“にら雑炊”を食べていたそうです。
戦国武将の戦いの影に味噌が大きな役割を担っていたのですね。

味噌養生

先人達の味噌にまつわることわざの中で、健康を表すことわざを紹介しましょう。

「生味噌は腹の妙薬」は、上等な味噌は消化薬になるという意味で、“なるほど”と思います。
「味噌汁は医者殺し」は、ちょっと物騒な言い方ですが、味噌汁を毎日飲んでいる人は病気を遠ざけるのでお医者さんは商売上がったりになるということです。
「味噌汁は朝の毒消し」は、二日酔いや寝ぼけ眼など、体の毒素を洗い流してくれることですが、朝の味噌汁は一日の活力源ですね。
「味噌汁は一杯、三里の力」は、言葉通りで一杯の味噌汁は三里(12km)歩いても疲れないほど力が出るということですから、味噌は健康な暮らしに欠かせない食材です。
昔から「味噌の三礎(みそ)」といって、味噌は調味料の基本で、健康を維持し、命を養い、美しさを保ち、老化を防止する“味のもと、命のもと、美のもと”といわれていたのです。 気づけば、毎日が“味噌養生”です。

「クマクス味噌」って何?

神代の頃、味噌づくりの神であった熊野奇日命(くまぬくすびのみこと)が最初に広めたのは、「クマクスの味噌」と呼ばれる黒豆味噌だったそうです。この黒豆味噌は大豆を煮てつくるのではなく、黒豆を蒸し、麹も玄米麹も使い、直接麹菌を作用させて“醸”(かもす)ことで、菌を“はぜこます”という手法でつくったそうです。
黒豆の苦味をなじませ、甘味を“かもしだす”事ができ、非常時に食料に困らないよう用意した食料貯蔵法でもあり、黒豆の栄養価が高い事を良く理解してつくられているのではないでしょうか。

味噌神と同じように、武田信玄も民衆に味噌づくりを指導した武将ですが、「梅干しと日本刀」の著者・樋口清之さんが、囲炉裏の上に縄で編んだ篭をつるし、その中でいぶされて保存された三百年昔に作られた“信玄味噌”があったと話しておられます。
今も昔も、味噌は優れた保存食品。味噌神の知恵は、今も日本料理に生きているのですね。

異邦人の“味噌談義”

英国のトラベル&フードジャーナリストのマイケル・ブースさんの著書「英国一家、日本を食べる」に、“奇跡の味噌とはしご酒”という章があり、二人の異邦人の“味噌談義”がなんとも洒脱で楽しく語られておりますので、ご紹介します。

驚いたのは、このコラムでもお伝えしたマギーさんの“味噌汁の宇宙の話し”が冒頭に紹介してあることです。ブースさんは最初、味噌に不信感を持っていたそうですが、大阪で味噌醸造を営むイギリス人のトニー・クレンリーさんと出会い、味噌にすっかり魅了されて行く話しが、トニーさんの味噌への愛情と文化と共に語られています。帰国後ブースさんは早速、味噌をトマトソースに加えたリ、スープの素(もと)代わりに使ったり、味噌に酢水、砂糖、 ガーリック、ゴマを混 ぜてドレッシングにしたりとすっかり味噌に虜のようです。

この異邦人食紀行は、ガーディアン紙も絶賛する楽しい日本食紀行で、おすすめです。

参考文献:
「英国一家、日本を食べる」マイケル・ブース著
亜紀書房刊(1.900円+税)

ニューヨークの味噌汁

ニューヨークに支局がある日本の新聞社の記者が書いた「みそ汁とミソスープ」というコラムを読みました。

支局のある米紙ニューヨーク・タイムズの社食では、昼食に紙コップに入った「味噌汁」を米国風にスプーンで飲むのだそうです。ある日、日本人らしく堂々とカップに直接口をつけて飲んだら、相席の衆から「おいおい何と下品な」という視線を感じたそうです。
やっぱり「味噌汁」は木のお椀で、フウフウいいながら顔と五感とで愛で、お箸を使って上手に具を差配し、味や香りや“味噌汁の宇宙”を楽しんでいただくのが「味噌汁の醍醐味」です。
みそはMISOでも、汁がスープでは「味噌汁」とは呼ばれず、「MISO Soup」ではやっぱり味気ない気がします。具も残念ながらいつもスカスカの豆腐の破片のまわりをペラペラの乾燥ワカメが力なく泳いで、超ショボイと嘆かれていました。「味噌汁」は、やっぱり“お”をつけたくなるような“母のお味噌汁”が一番ですね。

縄文味噌はクールジャパンの先駆け?!

今、石器時代や縄文時代の生き方が世界で注目されています。アメリカでは「The paleo Diet」がロングセラーで、パレオとは旧石器時代の略語ですが、石器時代の生活が理想だと説いています。日本では「縄文人に学ぶ」(上田篤著・新潮新書)が話題で、ともに13000年以前の生き方に学ぶべきだとの主張です。
そんな古代の暮らしに注目の現代ですが、縄文時代に味噌が作られていたらしいのです。

縄文の生活跡から“ドングリ”で「縄文味噌」と呼べるような食品を作っていた痕跡が発見されているそうです。
多くの文献では、味噌は650年から750年頃に中国や朝鮮半島を経てもたらされた「醤」に、温暖多湿な日本の風土に合わせ独特の工夫を加えて作られたのではないかと言われていますが、もしもそれよりずっと古い時代の縄文人たちがお味噌を作っていたのなら、確かに豊かで健康な暮らしではなかったかと想像してしまいます。
「味噌」が国字のように、味噌は日本食文化の象徴ですね。

世界に広がる“味噌力”

大宝元年(701年)に完成した大宝律令に、「醤院」という建物があり、ここでは官人の食事を調理するために醤(ひしお)や味噌などを扱っていたそうです。日本人とお味噌のつきあいは1300年以上ですから、多くの教えがありますが「みそ汁は医者殺し」とか、「みそ汁一杯三里の力」などのように味噌の効能を伝えるものから、「みそで飲む一杯、酒に毒はなし」や「みそ汁は煙草のず(ずとは毒・害のこと)をおろす」など、酒呑みや愛煙家が喜びそうな“味噌力”もあります。

みそ汁には、具や実を入れるわけでその食材の栄養効能ととも健康増進に欠せない、一石二鳥の“栄養剤”といえましょう。
今や味噌は、世界の調味料は“Miso”としてフランス料理に使われたり、みそ汁にトマトジュースを加えた新しい「Miso Soup」として若者の間でも人気だそうですから、世界の食文化に新しい“味噌伝説”が誕生するのではないでしょうか。

つれない“さげ味噌”言葉

日本の食卓に欠かせない味噌汁ですが、味噌を使った言葉に何故か“おみそ”の本意で無い使い方に驚きます。「見た目が9割」といわれる時代ですが、見た目と味は別物と思うのですが・・・・。ひどいのは「味噌も糞も一緒」、「味噌をつける」と罵られ、「味噌を擂る」とさげすまれ、歌えば「味噌が腐る」といわれ、いやな役人は「味噌役人」と“おみそ”には迷惑な表現ばかりです。

「手前味噌ですが」と諂いながらも「味噌を上げる」の意味では“自分のことを自慢する”となるわけで、散々です。でも、味噌歯(みそっぱ)や味噌滓(みそかす)と揶揄された子ども時代が懐かしく思われるのは、“味噌”という言葉の郷愁やそれだけ大切な存在だからではないでしょうか。今や“MISO”は世界の調味料として不動の地位を築いています。
日本の朝は何と言われようが“味噌汁”の香りから始まる気がするのです。

お味噌汁の子守歌

文人・三角寛氏の著「味噌大学」(現代書館刊)に、氏の母が子守をしながら読み唄った“味噌歌”が収録されています。とても博学な歌で、大豆の効能から大豆と麹が織りなす醸造の効能、そしてお味噌汁の効能まで詳細に伝えた大変興味深い歌なので、お味噌の部分をご紹介しましょう。
「味噌は二温一寒が、相和したすけて性(さが)になり、熱に出会へば涼(りょう)となる。寒に出遇へば熱となる。強気を和らげ、弱気を壮(おさ)め、急激に寛(ゆる)めて、緩(ゆるき)を堅(かた)む。血散り気取りを押し止めて、悪しきあつまり追い散らす。一身安隠無碍(のんむげ)神通」と唄って聞かせたそうです。
子どもの頃から“お味噌の滋養”を聞いて育ったのですから、これも先人の知恵でしょうか。
料理が「チン!」で済む時代、なぜかお味噌汁がとても“ありがたく”思えます。

味噌歌の出典:三角寛著「味噌大学」・現代書館発行

きのこのみそ汁で

朝のめざめは、母の作る味噌汁の具を切ざむ音と漂う香りでした。
料理時間が短くなるほど、病気に近づくといわれていますが便利優先の暮らしで“手間”をかける時間が確かに減っています。

さて、日本人に欠かせない“みそ汁”ですが、味噌は食材の栄養素に加え発酵過程で新たな栄養成分が生まれ、高い免疫力を作るといわれています。その味噌汁の具には、きのこ類が最強の取り合わせかも知れません。
今は1年中いただける椎茸、なめこ、しめじ、えのき、舞茸、エリンギのもつβ−グルカンなどの植物栄養素の抗酸化作用で抗がん作用や免疫力を強化する作用があるからです。
“きのこのみそ汁”は、味や香りでその時々に心を落ちつかせ、食欲を増し気力を増やしてくれる、日本人になくてはならない食のDNAだと思うのですが・・・。
今日は、“きのこのみそ汁”作りましょう。

美しい味噌汁の宇宙

ハロルド・マギー著「キッチンサイエンス」(共立出版刊)に「味噌汁はおいしいだけでなく、見た目も美しい。味噌汁を作って椀に注ぐと、味噌汁の粒が分散して汁は均一にかすんで見える。少し放置すると、味噌の粒子が中央に集まって小さな雲のようになり、ゆっくり形を変え、暑い液体が椀底から上昇し、表面の蒸発によって冷却・濃縮され沈んでゆく。これらが椀底で再び温まり、軽くなって上昇する。すなわち、出し汁中の対流の動きとして見てとれる。真夏に入道雲ができるのと同じ現象が、食卓の味噌汁でも起きている」と語っています。

どれだけの人が朝夕飲む“みそ汁”に、こんな思いを抱くでしょうか。なぜか“みそ汁”がとても愛しくなります。わかめやネギや小さな豆腐がゆっくりと踊り、対流が夏雲のように動くさまは宇宙です。
“おすまし”には感じない“みそ汁”の宇宙に、今は食卓の楽しさが広がっています。

お味噌汁に風味を添える「吸い口」

小津安次郎監督の映画は、ローアングルの映像で世界的に名声を博し、今は懐かしい白黒映画で円形食卓の食事シーンでは、なぜか味噌汁の香りが漂う気がしたものです。
もともと「味噌」という言葉には香りを感じますが、その味噌汁に風味を添えるのが「吸い口」です。「吸い口」とは、味噌汁や吸い物に風味や風情、季節観を添える“一手間”の薬味とおもてなしの心でしょうか。
「ゆずの皮」や「あさつきの細切」、ねぎの細切を布巾に包んで水の中でもみ洗いした「さらし葱」などがあります。
また、「粉唐辛子」や「粉山椒」、「ごま」、「木の芽」、「生姜の細切や絞り汁」、「せり」や「三つ葉」等々があり、材料のも臭みを消し、味に変化をつける一味ですが、なによりも味噌汁を引き立てる役者のように思えます。
朝餉、夕餉の味噌汁に「吸い口」を添えて、人生の深さを感じる小津ワールドを再現するのも楽しいときではないでしょうか。